「1/2 四捨五入すれば1」 第3話:笑顔

ストーリー

実話性と免責について

本作「1/2 四捨五入すれば1」は、
筆者自身の体験をもとに構成した実話です。

ただし、記憶の整理やプライバシーへの配慮のため、
一部の描写・表現は物語として再構成しています。

本作は、特定の人物や出来事を非難することを目的としたものではありません。
また、思想・医療・教育等を推奨する意図もありません。

読んでいてつらさや違和感を覚えた場合は、
無理に読み進める必要はありません。
必要なところだけ、受け取ってください。


ここは線路のそばの小さな道。
街灯もまばらで薄暗い。
小さなローカル線なので、線路と小道の間に人の往来を遮るものはなにもない。

砂月は二歳になっていた。
砂月は今、和美の腕の中で必死に笑顔を作る。
(笑わなきゃ。まだ生きたい。)

強い意志を持って必死に笑顔を作る。
二歳を過ぎたばかりの男の子が、実際にこの言葉を心に浮かべたとは考え難い。
ただ、砂月がこの光景を思い出すとき、その時の感情と共にこの言葉が浮かぶらしい。

夜の十一時過ぎ。
和美は砂月を連れて、家からしばらく歩いたところにある線路沿いに来ていた。
そこはすぐ近くで電車が見られるので、お昼の散歩コースにもなっていた場所だった。

ただ、こんな時間に来た事は今までなかった。
彼女は、すべてを終わらせようとここに来ていた。
電車に飛び込むつもりで。

砂月はそれを感じ取り、どうにかやめさせようとしていた。
和美には
「なにも知らずに笑って・・・。」
そう思われていたに違いない。


それでも砂月は笑う。
今泣けば、次の電車ですべてが終わってしまう。
その確信はあった。
実際、砂月の笑顔に心を動かされて、和美はすでに四本の電車を見送っていた。

(私が死んでしまえば、砂月は生きられんもんね。砂月と一緒に死ぬしかないよね。)
そう思ってここに来たものの、砂月があまりにも笑うものだから、
(この子の人生まで終わらせてしまって、本当にいいんやろうか。)
そんな迷いが出てきたのだ。

迷いと戦いながら、次の電車を待つ。

このローカル線は翌年に廃線になることが決まっていた。
そのため、運行本数は年々削減されていた。

すでに四本の電車を見送っている。



どれだけ時間が過ぎただろうか。




梅雨空から雨も降りだした。



(次で飛び込もう・・・。)






しかしこの日、次の電車が来ることはなかった。