はじめに:「イカれた責任感」があなたを壊す
ストレスフルな状況で、身体は鉛のように重いのに、「休むこと」に強烈な罪悪感を感じたことはありませんか? 誰にも迷惑をかけられない、私がいなきゃ仕事が回らない――そう思って、あなたの心身を一番に壊したのが、その「イカれた責任感」ではないでしょうか。
それは、真面目な人ほどハマる自己犠牲の罠です。
私自身、その「イカれた責任感」で限界を超え、うつ病で休職しました。そして、休職してもなお約1ヶ月間、自分は限界で動けないにも関わらず、メールやSMSで職場の仕事のフォロー対応をせざるを得ないという状況を経験しました。しかし、だからこそ私は断言できます。あなたの責任感は、手放すべきものだったと。
この記事では、あなたの心を壊した責任感の正体を知り、「健全な責任感」に書き換え、人生の安全を取り戻す具体的なマインドセットをお伝えします。
「イカれた責任感」の正体と、真面目な人ほど陥る罠
イカれた責任感」とは、自分以外にその仕事や役割を担う人がいないと思い込み、自分の心身の安全を犠牲にしてまで義務を果たそうとする、一種の強迫観念です。
それは、以下のような形で、あなたを自己犠牲の罠に引きずり込みます。
身体のSOSを「ワガママ」だと処理する
頭痛、下痢、吐き気、そして感覚麻痺。身体が発する明確なSOSを、「これくらい我慢すべき」「休むのは責任放棄だ」と処理してしまいます。それは、責任感という名のフィルターで、自分の命を守るべき警告を、「ただの不調」だと矮小化している状態です。
「私がいなければ回らない」という勝手な思い込み
私の場合は、これが顕著でした。入社3年で体調を壊し退職するまで、私は「私しかできない仕事」をしていると本気で信じていました。そして、引継ぎ資料など必要なものはすべて準備していたにも関わらず、休職後1ヶ月間も上司や取引先から連絡が途切れないという事実は、その思い込みを補強しました。
そして、休職に入る寸前の面談で、「引継ぎ資料などはすべて作っているので、必要な情報はすべてあります。ただ、私がいないと回らないと思います。」と取締役に伝えたことをはっきりと覚えています。
これこそが、『イカれた責任感』に支配されていた私の最も勝手で、最も危険な思い込みでした。
それだけ、自分の仕事には自信がありましたし、それだけの(イカれた)責任感を持って取り組んでいました。
しかし、そのとき私が気づくべきだった真実は、「私がいなければ回らない仕事」は、組織として欠陥がある仕事であり、あなたの心身の安全を脅かす欠陥システムの一部にされていたということです。
「助けて」が言えない檻
誰かの力を借りることを、責任放棄だと感じてしまうため、「助けて」「手伝って」という一言が喉の奥に引っかかって言えません。責任感が、周囲とのコミュニケーションを断ち切り、自分を孤立させる完璧な檻を作ってしまうのです。
私の場合、「誰かが嫌な思いをするかもしれないのなら、自分でやってしまおう。」という考え方もありました。この優しさこそが、自分自身を最も追い詰めるトラップでした。その考えもまた、他人の力を借りることの妨げになっていました。
「健全な責任感」への書き換え方:自分を最優先する技術
あなたの「イカれた責任感」は、あなたの真面目さと優しさの裏返しです。それを否定する必要はありません。ただ、そのエネルギーの矛先を「会社や他人」から「自分自身」に変えるだけで良いのです。
休むことを「責任ある行動」と定義し直す
「長く貢献し続けるために、今は責任をもって休む」とマインドを書き換えてください。
プロ野球選手でも、無理をした結果ケガをしてしまいシーズン途中で戦線離脱する選手がいます。ドジャースの大谷選手のように、途中で試合に出場しない日を設けながら1年戦い続けられる選手。毎試合必ず出て最初のうちは大活躍するが、シーズンの途中で不調やケガでいなくなってしまう選手。どちらがチームに貢献していると言えるでしょうか。
昔の日本は、毎試合必ず出て大活躍して、なおかつ1年戦い続けられる選手だけが認められる風習がありました。流行語にもなった「24時間戦えますか」の時代です。一定以上の質でこれを続けると、必ずなにかが壊れます。当時、全体的に選手生命が短かったのはこれも要因なのかもしれません。
責任の範囲を「線引き」する訓練
今日から、問題が起きたときや、誰かから期待されたときに、立ち止まって自分に問いかける訓練をしてください。
「これは、本当に私の責任か?」
他人の機嫌、会社の結果、部下の失敗…それらすべてを「自分の責任」だと考えることを手放しましょう。あなたが責任を持つべきは、あなたの仕事の質と、あなたの健康、この2点のみです。
私は、最初に勤務した営業会社で「他人のせいにすると、自分の成長がない」と教わりました。一理ありますが、自分が「どうにかできること」と「どうにもできないこと」はあります。
「代わりはいる」という解放の言葉
私が退職した後、私のやっていた仕事は2人体制に再編されました。そして、私がいなくても会社は回り続けています。売上も落ちました。それでも会社は回り続けています。
「あなたの代わりは誰もいない」という言葉の本当の意味は、「あなたの人生の代わりは誰もいない」ということです。会社でどれだけ優秀な実績を積んでも、あなたの人生の舵取りを代わってくれる人はいません。
「代わりはいる」と受け入れることは、「あなたが背負い込む必要はない」という、自分への解放の許可を与えることなのです。
終わりに:あなたの人生の「責任者」になる
うつ病になり、自分の人生を振り返ったとき、会社や部署の責任者としては頑張ったかもしれません。しかし、自分の人生は「責任者不在」の状態だったと痛感しました。
あなたの船は、あなた自身が舵を取る必要があります。
回復の第一歩は、「自分を最優先する」という、自分自身に対する健全な責任を持つことから始まります。あなたには、自分を幸せにする責任があります。どうか、自分に優しくなることから始めてください。
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