とにかくトイレが遠い
重度のうつ病と診断されてから、会社を休職しひたすら眠り続けました。
一日に20時間くらい寝る日も頻繁にありましたが、休めている感覚はなく自分が起きているのか寝ているのかすら分からないような感覚でした。
寝ていても常に頭はぐるぐる無駄に働いているし、体も熟睡していません。その証拠に、起きている時と同じくらいの頻度でトイレに行きたくなります。
その時住んでいた家は、ベッドからトイレまでが30歩程度でしたが、たどり着くころには息が切れていました。普段の呼吸が浅くなっていたんだと思います。壁伝いに、手で支えながら歩いていきます。寝すぎているからなのか、薬のせいなのか、病気のせいなのか。平衡感覚がおかしくて、ふらふらしていました。
視界は、手振れ補正のないカメラで撮った映像のような状況です。一歩一歩を踏み出すのがやっとで、壁が近くにないところを歩くときは、平均台を渡る時のように手を広げてバランスをとりながら歩く必要がありました。
これは、以前解説した『脳の通信制限』による情報処理能力の低下や、平衡感覚を司る脳機能の低下が原因だったのだと思います。
トイレで倒れる
そしてようやくトイレにたどり着くのですが、週1~2回倒れます。つまずいてではなく、貧血のような感じでです。
これは迷走神経反射というらしいです。
私の場合、トイレで用を足している間や足した後に、頭から血の気が引いていくんです。冷や汗がどんどんでて、目の前が真っ白になっていく感じです。
初めて起きた時は、そのまま気を失うんじゃないかという恐怖とともにトイレから出たすぐの廊下の床に倒れ込みました。目の前が真っ白で、手も足もしびれて動かない。流れる冷や汗が床にぽたぽたと音を立てて落ちていきます。
リビングとの間にはドアが一枚あったので、妻は気づくわけもなく。収まる気配もないので、どうすることもできません。微かに動く指で、床をつつくようにして音を立て続けると、妻が気づいて駆けつけてくれました。
妻は驚き救急車を呼ぼうとしますが、これまで貧血で倒れたこともあった私はもう少し様子を見るように提案。妻は心配そうに、タオルで汗を拭き続けてくれました。30分くらい倒れていたでしょうか。ようやく起き上がれるようになり、妻の肩をかりて、ベッドに戻ることができました。
次の病院の診察の時に医師に相談すると、「迷走神経反射」かもしれないと言われました。自律神経がおかしくなっていると起きやすいようです。しばらく安静にしておくと落ち着くので、倒れた時にけがをしないように注意してくださいとのことでした。
私の場合も、一度倒れると30分程度動けなくなりますが、ほっとけば落ち着きます。最初は怖かったですが、繰り返すうちに、朦朧とする頭で天井を見つめてやりすごすようになりました。
働いている時も迷走神経反射は起きていたのですが、他の人に迷惑をかけてはいけないと、便座に座って収まるのをやり過ごしていました。
今考えると、『迷惑をかけてはいけない』というイカれた責任感が、身体の危険信号すら無視させていたのだと思います。
それで「トイレから帰ってこない」と影で悪口を言われていたようですが、今考えると私も周りもイカれていますね。
妻にも迷惑を掛けました
それからは私がトイレに行く時はいつも、妻はさりげなく私を見に来てくれていました。そして迷走神経反射が起きて、私がトイレから這い出して来るとすぐに駆けつけてくれていました。いつ起こるのかが前兆がないので、大変でした。妻の実家にいる時に起きたこともあり、妻の両親を心配させてしまったこともありました。
私が病院などに外出する時も常に同行してくれて、心配してくれていました。
「いつ倒れるか分からないから。」
そう言って、行動を共にしてくれる妻にはどれだけ感謝しても足りないほどです。
もしあなたが今、同じ状況であれば、頼れる人がいるなら必ず頼ってください。それは弱さではなく、回復に必要な『安心』を得るための最優先事項です。
妻からの生存確認
妻は私が寝ている時も時々、私の顔に耳を近づけてきました。そして、「生きてるね。よかった。」とぼそりとつぶやいてリビングに戻ります。私は眠りが浅いので気づくのですが、起きてはいないので反応はできません。その行動に申し訳なさを感じながら、再び眠りに落ちます。
顔色も悪く、息も浅いので死んでいるかもしれないと心配になることがあったと後日聞きました。
回復段階です
うつ病の回復と共に、迷走神経反射の回数も減ってきました。それから2年ちょっとは続きましたが、ここ半年くらいはほぼ起きていません。
うつ病は、自律神経の不調との闘いという一面もあります。自律神経については、まだまだ未解明な部分が多いと聞きます。それが少しずつでも解明されていくと、うつ病との闘いが少しは楽になっていくのかもしれません。
私たちは、残念ながら科学的な解明を待つ間も、この切実な身体症状と戦い続ける必要があります。私は体験の情報を共有し、当事者が一人でも安心して療養できる社会を目指して、発信を続けていきます。
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医学的根拠はございません。専門的な治療が必要な場合、必ず内科・脳神経外科、または心療内科・精神科の専門医の意見を仰いでください。
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