ここは線路のそばの小さな道。
街灯もまばらで薄暗い。
小さなローカル線なので、線路と小道の間に人の往来を遮るものはなにもない。
砂月は二歳になっていた。
砂月は今、和美の腕の中で必死に笑顔を作る。
(笑わなきゃ。まだ生きたい。)
強い意志を持って必死に笑顔を作る。
二歳を過ぎたばかりの男の子が、実際にこの言葉を心に浮かべたとは考え難い。
ただ、砂月がこの光景を思い出すとき、その時の感情と共にこの言葉が浮かぶらしい。
夜の十一時過ぎ。
和美は砂月を連れて、家からしばらく歩いたところにある線路沿いに来ていた。
そこはすぐ近くで電車が見られるので、お昼の散歩コースにもなっていた場所だった。
ただ、こんな時間に来た事は今までなかった。
彼女は、すべてを終わらせようとここに来ていた。
電車に飛び込むつもりで。
砂月はそれを感じ取り、どうにかやめさせようとしていた。
和美には
「なにも知らずに笑って・・・。」
そう思われていたに違いない。
それでも砂月は笑う。
今泣けば、次の電車ですべてが終わってしまう。
その確信はあった。
実際、砂月の笑顔に心を動かされて、和美はすでに四本の電車を見送っていた。
(私が死んでしまえば、砂月は生きられんもんね。砂月と一緒に死ぬしかないよね。)
そう思ってここに来たものの、砂月があまりにも笑うものだから、
(この子の人生まで終わらせてしまって、本当にいいんやろうか。)
そんな迷いが出てきたのだ。
迷いと戦いながら、次の電車を待つ。
このローカル線は翌年に廃線になることが決まっていた。
そのため、運行本数は年々削減されていた。
すでに四本の電車を見送っている。
どれだけ時間が過ぎただろうか。
梅雨空から雨も降りだした。
(次で飛び込もう・・・。)
しかしこの日、次の電車が来ることはなかった。
