はじめに:思考の燃費が悪いとどうなるか?
なぜ、うつ病の人はいつまでも疲れているのか?
前回の記事で、私のうつ病の根本的な原因は、自分の本質を押し殺した「生き方」にあると気づいたことをお伝えしました。しかし、その気づきを得たからといって、脳の疲弊がすぐに回復するわけではありません。
闘病期間中の大きな悩みは、「なぜこんなに寝ても休んでも疲労が抜けないのか」ということでした。体を動かしていないはずなのに、常にエネルギーが枯渇している感覚でした。
原因は「思考の燃費」が極端に悪いから
その答えは、私たちの「思考の燃費」が極端に悪いことにありました。
症状の波に翻弄され、原因を外(職場、他人、環境)に向けて怒りや不満を抱えている間、私たちの脳は、常に無駄な燃料を消費し続けているのです。
このエネルギーの枯渇は、私たちの脳が「無駄な思考の交通渋滞」を起こしていることに原因があります。
これらの思考は、今この瞬間の回復に全く貢献しません。それどころか、ただひたすら脳を酷使し、ますます疲弊させるのです。この「思考の燃費の悪さ」を改善することこそが、回復への第一歩であり、「Satsuki式マインドセット」の出発点となります。
Satsuki式:思考の燃費を診断する3つのチェックリスト
あなたの「思考の燃費」がどの程度悪いのかを客観的に測ってみましょう。以下のチェックリストは、私が闘病初期に「常にエネルギーを浪費していた」思考の習慣です。
- まだ起きていない未来の不安や失敗を、頭の中で何度も詳細にシミュレーションしている。
過去の私の例:「このまま復帰できなかったらどうしよう」「有給消化の期間までに復職できるかな」「この生活はいつまで続くのだろう」 - 過去の失敗について、「あの時こうしていれば」と何度も思い返し、後悔の感情を呼び起こしている。
過去の私の例:「あの時言い返していれば、みんなの反応は変わったのかな」「あの時もし私が怒っていたら、あいつの思い通りにはならなかったのかな」 - 他人の何気ない言動に対し、「何か深い意図があるのでは?」と常に深読み・裏読みをしている。
過去の私の例:「あの時、突然私の意見を先に聞いてきたのはなにか意図があったのかな」「あえて私にこの確認をしてくるのは、なにかあるのかな」 - 解決策のない問題(例:過去の理不尽な出来事)について、感情のままに頭の中で延々と怒りを放出している。
過去の私の例:「あんなに大切な仕事の話をしたのに、酒のせいで忘れたことにしてごまかされたのは腹立たしい」「根も葉もない作り話をでっち上げられて、私が悪者にされたのはムカつく」 - 常に自分の行動や言動に対し、「人からどう見られているか」をチェックし、疲れている。
過去の私の例:「私があんな言葉を使ったせいで、相手は気分を害したのではないか?」「こんな風呂にも入ることができていない、ボサボサの髪の姿を見られたらどう思われるだろう」
もし3つ以上当てはまったなら、あなたの脳は今、「無駄な思考の燃料代」を大量に払い続けている状態です。
「思考の燃費」改善法【実践編】:紙とペンで客観視する
思考の燃費を改善するために、まず行うべきことは、思考を脳から「データ」として切り離し、客観視することです。
第一歩は「紙とペン」:思考を脳から切り離す
頭の中で堂々巡りしている思考は、霧や雲のようで捉えられず、エネルギーを消費し続けます。そこで、紙とペンを使って思考を物理的に書き出すことで、脳の外に「客観的なデータ」として取り出します。思考に形を与えるのです。
この客観的な自己分析には、仕事で培った問題解決能力や、資格取得で身につけた論理的思考が役立ったと確信しています。
【実践】Satsuki式「思考の交通整理」
私が毎日実践していた、思考の燃費を可視化し、改善するための簡単なワークをご紹介します。これがSatsuki式「思考の交通整理」です。
毎日、時間を決めて、頭の中の無駄な思考(交通渋滞)を整理するために、以下の3つの視点に分けて書き出してください。
- 信号: 今、頭を占めている「思考のゴミ」は何か?
例:上司の顔が浮かんでムカつく。 - 分類: それは「過去」「現在」「未来」のどこに属するか?
例:過去(半年前の出来事) - 処理: この思考は「今、解決が必要か?」
例:NO(その上司はもう関わらないから)
この「思考の交通整理」を行うことで、あなたは脳内のエネルギーを浪費している思考の正体を知り、驚くほど多くの思考が、「解決の必要のない、過去や未来の出来事」に占められていることにハッキリと気づくはずです。
「過去」のことはいくら考えても変えることのできないものです。解決することはありません。そして「未来」のことは、一部については「未来に起こりそうなことに対する対策を考える」という解決方法がある事柄はあります。しかし、大半は「もし○○になったらどうしよう」という、いくら考えても解決することはない事柄です。
今解決するする必要のないことを排除していくだけで、思考の交通渋滞は飛躍的に緩和されていきます。
古代哲学との共通点(エピクテトスの教え)
実はこの考え方は、私が大好きな古代ローマ時代の哲学者エピクテトスが説いたストア哲学の核心とも深く繋がっています。彼は、「変えられない外部の事柄に心を乱すな」と説きました。
この交通整理は、その古代の知恵を、現代の回復プロセスに応用したものなのです。
「解決の必要がない」と紙の上で確認できた思考は、「無視してOK」と脳に認識させられるようになり、エネルギーの消費が劇的に減り、思考の燃費が改善し始めるのです。
まとめ:燃費が改善された未来
思考の燃費が良くなると、人生は一変します。
無駄な思考に費やされていたエネルギーを、本当に大切なこと、つまり脳の回復、体調の管理、好きなこと、再発防止のための習慣づくりに使えるようになります。
この「客観視の習慣」こそが、再発防止の基盤であり、病気の原因を抱えない自分にリニューアルするための第一歩です。
この「自分自身を見つめ直す作業」こそが、私がこのブログで提唱する「Satsuki式マインドセット」の出発点です。
次回の記事では、この客観視したデータを使って、具体的な「再発防止のための習慣」をどう作っていくか、その具体的な実践法について詳しく解説していきます。
【重要】
これは私の体験談です。噓偽りはございませんが、すべての方に当てはまるわけではありません。また、私は医学的専門知識を持ち合わせておりません。
うつ病は現在も研究中で、うつ病の原因に関する説も様々です。本人が感じるストレスが原因という説もあれば、遺伝という説、ウイルスという説まで様々です。医学的根拠はございませんので、必要に応じて専門家、医師の意見や指示に従うようにしてください。
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