うつ病を「心の病気」と呼ばない理由:脳科学とモノアミン仮説から考える偏見の構造

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うつ病は「心の病気」という捉え方

今回は、うつ病の呼び方についてお話していきたいと思います。
この呼び方や捉え方の違いが、闘病者をどれほど追い詰めるか。その現実を伝えるためです。

一般的には「心の病気」

皆様もうつ病と言えば、「心の病気」というイメージをお持ちではないでしょうか。テレビや広報誌などの大きなメディアでも、公的なものにも「心の病気」という呼び方をよく見かけます。実際、病院にかかろうとした場合には「心療内科」や「メンタルクリニック」に行くことになります。

私は、この「心の病気」という呼び方、捉え方が間違っているのではないかと考えています。体感として、うつ病は脳の病気です。脳疾患です。医学的な分類がどうなっているのかは分かりませんが、「心の病気」と位置付けるせいで「気合で行ける」とか「気持ちの問題だ」と言われてしまう気がしています。

「心の病気」というイメージのせいで

私は、休職中の会社との定期面談の際に会社の担当者に「うつ病は風邪みたいなものだから」と言われました。なにを言っているのかが理解できなかったので、正直反応に困りました。
その私の反応を見て、笑いながら

「風邪は風邪と思ったら風邪になる。風邪だと思わなかったら風邪じゃない。そんなところあるだろう?うつ病もそういうこと。風邪と一緒で、薬飲んでぐっすり寝たら楽になるよ。あとは気合、気合。気の持ちようなんだから。病は気からってね。まずはサボらず朝ちゃんと起きて、夜更かししないでしっかり寝るようにするところからだね。」

と肩をポンポン。私は絶望しました。
この言葉が、『気の持ちようではない病』と闘う人間を、どれほど深く絶望させるか想像できるでしょうか?

もしかすると、この担当者は私を励ますつもりで言っていたのかも知れません。うつ病で休職してしまうことになったけど、すぐに治るから大丈夫。またすぐに元気になって働けるようになるよ。そう言っているようにも聞こえなくはありません。きっと悪意はなく、良かれと思って言ったんでしょう。そもそも風邪の捉え方から間違ってはいるのですが。

この台詞を言ったのは、会社のうつ病担当者でした。本人曰く、何人もうつ病休職者を担当してきたから、あなたの気持ちは良くわかるとのことでした。「どのあたりが?」と言いたくなります。

脳疾患の例として「脳梗塞」

失語症との闘い

脳の病気と言われて浮かぶのが、脳梗塞やくも膜下出血という方も多いのではないでしょうか。亡くなってしまう方もいらっしゃいますし、一命を取り留めても半身麻痺などの後遺症が出てしまう場合もあることがよく知られています。

2年前、奥様のお父さんが脳梗塞で倒れました。その前の日までは普通にバリバリ仕事をしていたのですが、その日から言葉がしゃべれなくなりました。失語症というらしいです。

不幸中の幸いで、身体機能には後遺症は出ませんでした。ただ、倒れてすぐは「あ~」とか「う~」しか出ません。しばらく経つとしゃべれるようになりましたが、頭に浮かんでも口に出すと違う言葉が出ると言っていました。最初のうちは、時計も読めず、物の名前もわからず、住所も言えず。娘の名前も口に出せないという悲しい状態でした。

脳梗塞は、脳の血管が詰まってしまう病気です。脳の特定部位に酸素や栄養が行き渡らなくなり細胞が壊死することで、後遺症につながります。奥様のお父さんの場合、左脳前頭葉にあるブローカ野(運動性言語野)がダメージを受けてしまいました。

突然の出来事でしたが、ご本人はもくもくとリハビリを続けていらっしゃいました。小学生のドリルのようなものからスタートして、毎日もくもくと。今では数字を読むのが大変そうなのと、たまに言葉に詰まるくらいで、それ以外はほぼ克服されています。尊敬します。あきらめることなく、毎日毎日。コツコツと。

闘病者にかける言葉

皆さんは、そんなに頑張ってまたしゃべれるようになろうとしている人に対して
「ちゃんとしゃべって」
「娘の名前を呼べないなんて、人でなしだ」
という言葉を投げかけますか?そんなことしませんよね。だって、病気なんですから。本人はしゃべりたくてしょうがないのを知っているから。脳に異変が起きているんですから。
それはきっと、後遺症で手や足が動きにくくなってしまった方に対しても同様だと思います。

うつ病の原因と症状(※仮説)

うつ病は、まだまだ研究中だということですが様々な原因で以下のことが起きていると言われています。(※諸説あるようです。以下はそのうちの一つの仮説※)
うつ病の最もよく知られた仮説の一つに、モノアミン仮説があります。これは、脳内の神経伝達物質であるセロトニン、ノルアドレナリン、ドーパミンといったモノアミン類が不足したり、そのバランスが崩れたりすることで、脳内の情報伝達がうまくいかなくなり、うつ病の様々な症状が現れるという考え方です。

  • セロトニン
    気分や感情を安定させる働きがあり、「幸せホルモン」とも呼ばれます。この物質が不足すると、気分の落ち込みや不安、睡眠障害などの中心的な症状が現れます。
  • ノルアドレナリン
    注意力や意欲、活動性を高める役割があります。不足すると、意欲の低下や集中力の欠如につながります。
  • ドーパミン
    快感や喜び、動機付けに関わる物質です。この働きが低下すると、何事にも興味や喜びを感じられなくなる無快楽症という症状を引き起こします。

そしてうつ病患者の脳では、神経伝達物質の異常だけでなく、特定の部位の構造や機能にも変化が見られることがあります。

  • 海馬の萎縮
    長期的なストレスは、コルチゾールというストレスホルモンを過剰に分泌させ、記憶や感情に関わる海馬という部位の神経細胞にダメージを与え、萎縮を引き起こすと考えられています。
  • 前頭前野の機能低下
    思考力や判断力、感情の制御に関わる前頭前野の活動が低下していることが、MRIなどの脳画像研究で示唆されています。この機能低下が、うつ病の症状である思考力の低下や決断力の減退に関連していると考えられています。

最近の研究では、脳の神経細胞が新しく作られる神経新生が、うつ病では抑制されているという説も注目されています。脳由来神経栄養因子(BDNF)というタンパク質は、神経細胞の成長や維持に不可欠ですが、ストレスなどによってこのBDNFが減少すると、神経新生がうまくいかなくなり、うつ病の発症リスクが高まると考えられています。

これらの神経伝達物質の異常は、脳梗塞の『脳のブローカ野の損傷』と同じように、『本人の意思とは無関係に』機能が低下している状態です。

それって脳疾患なのでは?

仮説とはいえ、この原因と症状を見る限り脳に異常が起きてますよね。脳の病気です。

本人は、頑張ろう頑張ろうとしている。日常生活をパワフルに送りたいし、夜ぐっすり眠って朝元気に目覚めたい。でも感情が動いてくれないし、体のコントロールが効かないんです。脳に異変が起きているから。

それでも周りからかけられる言葉は、
甘えなんじゃない?」
気のせいなんじゃない?」
本当にうつ病なの?」
「気合でいける、気合で」
「夜更かししないでちゃんと寝なさい」
サボらず朝起きて、昼夜逆転を直しなさい」
「頑張れ。心の持ちようだ」
こんな言葉が含まれます。すべて私が実際に会社の人からかけられた言葉です。

それって、脳梗塞で言葉がでない人に「気合でいけるって。しゃべろうよ。」とか手が動かない人に「動かないって言っているの、甘えなんじゃない?」って言っているのと同じだと思うんですよね。

心という形のないものを患っているようなイメージにしてしまうから、得体の知れないものになったり実は気のせいなのかもという認識が生まれてしまうんだろうなと思います。

どこでどんな現象が起きているのかを理解してくれる人が増えると、うつ病で苦しむ人が少し楽になるのかもしれません。

『心』という形のないものに押し込めるからこそ、『気合で治る』という非科学的な認識が蔓延するのです。」

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