「うつ病に運動は効果的」は嘘ではないが、初期は「毒」になる。回復のタイミングの見極め方

回復サポート・レビュー

頻繫に言われること

うつ病と診断された方は、おそらく友人・知人に一度は言われたことがあるのではないでしょうか。

「うつ病には運動がいいらしいよ。」
「うつ病なら、散歩したらいいみたいよ。」

そして、SNSでもこんな言葉が並びます。
「運動して、バナナを食べていればうつ病なんて克服できる。」

この言葉を真に受けて、運動に取り組もうとした時期もありました。闘病者としては一刻も早く社会復帰をしたいので、良さそうなことはなんでも取り入れたくなるのが心情というものです。そして、取り入れるに十分な理由がありました。

そして取り入れた結果、私は撃沈しました。

運動が良いと言われる理由

うつ病に運動が効果的であるという研究結果は多く報告されているようで、現在ではうつ病や不安障害の治療の補助としても推奨されていることは間違いないようです。

「天然の抗うつ剤」とも呼ばれることもあり、科学的なメカニズムとして運動が以下のような効果をもたらすとされています。

  • セロトニン、ノルアドレナリン、ドーパミンなどの神経伝達物質の分泌が促され、気分の安定や幸福感につながります。うつ病の治療薬がこれらの物質に作用することからも、運動の効果が注目されています。
  • BDNFと呼ばれる脳由来神経栄養因子が増加し、神経細胞の成長を助け、脳機能を健康に保つ役割を果たすと考えられています。
  • エンドルフィンの分泌も高まり、ストレスを軽減し、気分を高揚させる効果が期待できます。
  • ストレスホルモンであるコルチゾールの過剰な分泌を抑制し、ストレスに対する心身の反応を和らげると考えられています。

このような効果を得るためには、ジョギング、ウォーキング、サイクリングなどの有酸素運動が良いとされているようです。

私がうまくいかなかった理由

効果があることは間違いないようですし、これは比較的広く知られた情報のようです。実際、医師に勧められた経験がある方も多いと思います。

しかし、私が試した結果悪化しました。

タイミングが適切ではなかったのです。初期段階での運動は、回復を早めるどころか、再発のリスクを高め、自責の念で精神状態を悪化させる『毒』になりかねません。

闘病開始から半年後まで

闘病がスタートして、半年程度は運動なんて夢のまた夢でした。

1か月目はひたすら寝て起きてを繰り返すだけ。ベッドとソファとトイレの往来だけでやっとです。

2ヶ月目くらいに、妻と買い物に行ったり散歩に行くことができるようになったように思います。それでも、買い物に行くとその後3日はぐったりと寝込んで動けなくなります。なので、買い物は5~6日に一度が限界でした。

そして、凄く調子が良いという時に妻と散歩に行くのですが、それも月に1回~2回くらいのペースでした。ちなみにひとりで散歩に行かないのは、途中で倒れるかもしれないからです。「散歩」というと、のどかでのんびりとした雰囲気を想像しますが、その頃は30分程度のサバイバルのようなものでした。

もちろんこのタイミングでは、運動をしようなんて思っていません。生きるだけで必死ですから。家にいて、調子が良い時に窓越しに日光を浴びる時間を持つことだけはどうにか頑張るようにしていました。ちなみにこの時、私はベランダに出ないようにしていました。

そのため、外に出るのは1週間に1回~2回の妻との買い物と、月1回程度の短時間の散歩、あとは隔週の通院という状況でした。この時の私からすれば、この外に出るという行為が十分すぎるほど運動の域だったと思います。

そしてその状況は、12月くらいまで続いていましたので闘病開始2カ月目から半年目くらいまでがこの状況だとイメージしていただければ良いかなと思います。その間も精神状況などは、ずいぶんと回復傾向にはありました。外に出るという行為に抵抗感があることと、体がついていかないことが大きな原因だったように思います。

転勤に合わせて引っ越した部屋だったので、職場からは徒歩7分程度、そして最寄りのスーパーが職場と同じ建物に入っていたことも影響があったかもしれません。その建物に入ると、頭痛や冷や汗が出る症状は2月に引っ越すまで続いていました。

その状況の中でも、他県に住む母の病院への送迎は月1回続けていたので、それはすごいなと自分でも思います。母に休職を知られるとややこしくなるので、悟られないようにしていました。

半年後以降

半年経ったくらいから、ようやく頑張って散歩に行こうという気持ちが生まれてきました。凄く調子が良いと感じている時に1時間程度の散歩は行けるようになりました。しかし、やはりその日頑張った分、その後3日~4日はぐったりとしてベッドに寝たきりになります。

それでも「散歩や運動はうつ病の回復に効果的」という言葉を信じて、行ける時は行くようにしていました。そして、部屋の中でできる運動も探してやるようにしていましたが、結果は同じようなものでした。

Switchのリングフィットアドベンチャーは、一度やりましたが私のキャパシティーを大きく超えていてできませんでした。できたのは段差を利用した踏み台昇降と、ゴムを利用したボート漕ぎ運動みたいなものだけでしたが、ほんの5分~10分程度しただけでその後2~3日はぐったりする日が待っていました。

骨折と同じ

ここからは私の考えです。この「うつ病には運動や散歩が効果的」という言葉は、間違いではないと思いますが、状況は骨折と同じなんだと思います。うつ病とは、『脳の疲労骨折』に近く、安静が何よりも最優先されるべき状態なのです。

骨折前

日々運動をしたり筋トレをしたりすることは、骨折の予防になることはイメージできると思います。運動習慣がない方が突然運動をしたり、筋肉が十分でない方が転倒したりすると骨折しやすいというのはあると思います。

なので、骨折しないために運動をする。散歩をする。これは効果がある行動だと思います。「予防のため」というところでしょうか。

そして、運動の効果を見るとうつ病にならないようにするためには、運動は効果的なようです。「うつ病の予防」としては機能すると思います。

骨折した後

ここからが注意が必要です。皆様は骨折してギプスをしている人に対して、「運動が効果的だよ。」と言いますか?

おそらく言わないと思います。骨折していない箇所のトレーニングをすることはあるかもしれませんが、足を骨折しているのに「歩くのは大事だから、しっかり歩いて。」とは言いませんよね。

うつ病はすでに骨折をしている状態です。骨がまだつながっていないのに、「運動するといいよ。」と言われて、一生懸命動かしているような状態になっているんだと思います。

これは言う側も言われる側も知識不足が原因だと思いますが、十分に骨がつながっていないのに無理に運動をすると、骨がつながるのが遅くなったり、変につながったりします。にもかかわらず、「早く治りますように。」とみんなで運動を推奨しているような状況になっているのだと感じました。

骨がつながってから

ここからがようやく運動の出番だと思います。骨が折れた箇所は、最初は脆いです。しかしそこから再び使っていくと、前よりも太くて強い骨になるそうです。ただそれは、しっかりつながってから使った時の場合です。

うつ病も、ある程度回復してから運動をすることによって前よりも抵抗力がある体を作り出せるのだと思います。もちろん、闘病開始段階の症状にもよります。すぐにでも運動をできる人はいると思いますし、何年経ってもできない人もいると思います。

ただ共通して言えるのは、骨がつながってからしか運動をするべきではないということです。これに気をつけていないと、骨折をしていて足にギプスをつけているのに一生懸命ジョギングをしていたり、ギプスを外して歩き回ったりしてしまうことになるのだと思います。

自分の状況を見極める

私は、情報を鵜呑みにして「どうにかして運動をしなければ。」と頑張りました。その結果、ぐったりした日は増えました。そして、「運動する習慣をつけようとしたのに、失敗した。私はダメな奴だ。」という感情が、精神状態を痛めつけます。できるはずのないことに挑戦して失敗して嘆くという、悪循環を生みだしていたのです。

冷静になって考えれば、簡単なことです。ただ、「早く社会復帰したい」という焦りが、私を盲目にしていたのだと思います。

当然ですよね。数か月ほぼ寝たきりだったのに、突然運動を始めるなんて体が対応できるはずがありません。入院したことのある方なら分かると思いますが、1~2週間くらい入院しただけで筋肉が目に見えて落ちますよね。それの何倍もの期間、まともに動いていないのにそれをやろうとすれば失敗をします。

「できなくて当たり前」の精神が大事なのだと思います。骨折で言えば、『ギプスが外れて、医師の許可が出た』段階を、自分自身で見極めなければなりません。成功したら自分を褒めればいいのです。少しずつ少しずつ、一歩一歩が大切です。

そして今

私は今、闘病を開始して3年が経ちます。毎日少しの外出をするということはできるようになりました。ただ、運動はできていませんでした。

そして、先月からですが薬を変えて新しい挑戦をしています。新しい薬の力を借りることで、気力も上がりました。思考もいつもよりうまく機能する時間が増えています。そして体も、安定していたここ1年くらいに比べて、1.2倍くらいの速度で動くような感覚で動きます。

その勢いを使って、運動をしています。室内でエアロバイクを10分漕ぐ習慣をつけるだけなのですが、私にとっては大きな挑戦です。いまのところ、2週間程度続いています。

でも、体力が自分が思っていた以上に落ちていたのだなと痛感します。いつもより少し働く思考力と、少し速く動く体では1日を過ごすパワーがないのです。

朝8時に起きて動きだしても、夕方18時にはパワー切れを起こします。「眠い」とかではなく、思考がまわらなくなるし、体も倒れ込むように動けなくなるのです。おそらくここ3年、省エネルギーで過ごす生活に慣れていたのでしょう。

薬のおかげで、「そうそう!前はこんな感じで頭は働いていたし、体は動いていた。」という感覚が湧くのですが、その出力では今は10時間しか生きれません。

毎日少しずつトレーニングして、この出力でも1日を過ごす体力をつけていくことに挑戦しています。ようやくその段階に入ったという感じです。

ですので、「うつ病には運動が効果的」という言葉には、「ただし、タイミングを見極めるのは大事」という注意事項があることを忘れないようにしないといけないと感じています。

どんなタイミングでも効果的なのであれば、全国の心療内科やメンタルクリニックにジムが併設されていてもおかしくないんだろうなと一人で勝手に感じています。私は、この「運動」が「義務」や「焦り」になる前に、適切なタイミングで始めるサポートをしていきたいと考えています。

【重要】免責事項と信頼性について

ここに掲載している内容は、すべて私個人の実体験と、一般的な知識に基づいてお話ししています。

この記事は、医師や医療専門家による医学的な診断、治療、またはアドバイスを代替するものではございません。

医学的根拠はございません。専門的な治療が必要な場合、必ず内科・脳神経外科、または心療内科・精神科の専門医の意見を仰いでください。

当記事を参考に、読者の方が下した判断や行動の結果について、当サイトは一切の責任を負いかねます。

合わせて読んでほしい:
うつ病は「脳の通信制限」:情報処理能力が崩壊し、「暇」すら感じなくなるメカニズム
【根本原因】「イカれた責任感」をどう手放すか? 「早く治さなきゃ」という焦りの正体