うつ病は「脳の通信制限」:情報処理能力が崩壊し、「暇」すら感じなくなるメカニズム

回復サポート・レビュー

一日、何をしているのか

まだ休職している頃、面談のために会社に行くと

「することなくて暇でしょう?
「ネットフリックスとか、見放題だね。」
「毎日散歩とか、優雅でいいね。」

そんな言葉を多くかけられました。暇なわけないですよね?
この『暇』を感じられない状態こそが、うつ病の最も苦しい症状の一つなのです。

的外れすぎて驚くとともに、否定するエネルギーもないので、「まあ。」とだけ言って足早にその場を離れます。

療養に入ってすぐはエネルギーも底をついているので、散歩なんて夢のまた夢です。生きているだけで消耗するのに、外を歩くなんて無謀にもほどがある。そんな感覚です。

ネットフリックスやYouTubeも見ることはありません。情報処理が追いつかないので、映画を見てもなにが起きているのか分からないのです。唯一テレビは、画面が流れていくのを見ていればいいので、気を紛らわすために画面は見つめていました。それでもなんの番組を見ているのか、いつコーナーが切り替わったのかなんてさっぱりわかりませんでした。

そして一番感じたのは、やはり「暇」を感じる場面がないということです。休職期間は、長期の連休をとっている状態です。健康であれば、「ひまだなあ。」とか、「なにしようかなあ。」「なんかすることないかなあ。」という場面も出てくるのでしょうが、何カ月、何年休んでも、「暇」を感じることはありませんでした。

感覚としては、一日中「常に忙しい」。頭の中は常にざわついているし、体も疲れ切っている。「あれがしたい。」「これがしたい。」という感情はなく、ただ何かに常に追い立てられているような感覚でした。

そして「何かをやった」という実績はなにも残らず、「今日もなにもできなかったな。」というむなしさと共に、あっという間に一日が終わってしまうのです。

ちなみに医師の方に伺うと、

「暇を感じるという状態は、何かをするエネルギーを持っているのに使っていないからエネルギーを使う手段を探している状態。余ったエネルギーがないと、どれだけ時間があっても暇と感じることはない。」

ということでした。(※たぶん諸説あります。)

脳の通信制限

私はこの現象は、自分の脳がスマートフォンで言う「通信制限」にかかっている状態と同じなのだと思っています。

スマートフォンで動画を見すぎた時など、ギガが足りなくなり通信速度に制限がかかって異常に遅くなることがありますよね。最近でいうと、電波状況が悪いせいでYouTubeを見ようとしても画面がぐるぐるしてなかなか先に進まない状況の方がイメージが付きやすいでしょうか。

そのぐるぐるしている状態って、スマートフォンは動いていないわけではなくて、情報を受信しようとして頑張って動いている状態です。こんな時の方が、バッテリーの減りが早かったりします。

それと同じで、うつ病にかかると脳の働きが著しく悪くなって、頭の中がぐるぐるしっぱなしになります。なにかを得るために常にエネルギーを使ってぐるぐる。常にフル稼働の状態です。

脳は情報を処理しようと頑張ってはいるのですが、通信制限がかかっているのでうまくいきません。実際、言葉は出にくくなります。本も読めなくなります。物忘れもひどくなりますし、注意力もすごく落ちました。

社会人になってから営業と接客業など言葉を使う仕事を生業にしていて、社内外で研修もたくさん実施していました。その分、言葉を重要視していましたし、言葉選びにも人一倍注意を払っているつもりでした。その私が言葉が出なくなるなんて、思ってもみませんでした。

情報処理能力が低下する

情報処理能力が落ちているのはすぐに分かりました。テレビを見ていても、内容はほとんど入ってきません。番組を見終わったあと、すぐに「どんな番組だった?」と聞かれても答えることができませんでした。

なにかをしながらではなく、画面から目を離さずしっかり見ていたのにです。自分としては、健康な頃と同じように見ていたのに、内容が何も残っていないのは衝撃でした。

仕事をしていた頃は、いつも忙しかったので、同時にたくさんのことをしていました。会社の固定電話に出て相手と話しながら帳簿の数字を見て、電卓をはじきつつ計算結果を書類に記入し、隣の席から話しかけてくる人の話を聞くということを同時にしている時期もありました。

でもうつ病になってからは2つのことすらも同時にはできなくなりました。一度に2つのことをしようとすると、頭の中がかゆくなるような感覚になりました。針の穴に無理に糸を通そうとするような感覚。机に胡麻粒を立てようとするような感覚でしょうか。

パソコンのスペックが落ちる

すべてにおいて、通信制限の状態を感じていました。

低スペックのパソコンで、パソコンゲームをしたり大きなファイルを開こうとするようなものかもしれません。

スペックの低いノートパソコンで無理に重いファイルを開こうとすると、ファイルが開くまで時間がかかりますよね。パソコンはファンを大音量で回して、画面をぐるぐるさせて開こうと頑張ってくれます。途中でESCボタンや他のボタンも押したくなる感覚を感じる方も多いかもしれません。ボタンを押せば、逆にもっと時間がかかってしまうこともしばしばなんですけども。

うつ病にかかると、脳というパソコンがこれと同じ状態。もとのパソコンよりも低スペックになっているのかもしれません。パソコンの中はファイルでいっぱい。激重の状態です。

パソコンと一緒で、
「早くしろ!ちゃんとしろ!しっかりしろ!」
と、キーボードにあるボタンを連打しても、処理は早くなりません。逆に処理することが増えて遅くなっている状態です。

うつ病の療養期間は頭の中のファイルを整理して容量を軽くしたり、パソコンのスペックを基に戻す作業をしている期間です。時間がかかる作業ですので、なんのボタンも押すことなく、優しい気持ちで見守ってくださると、作業にかかる時間が少しは短くなるのかもしれません。

そして、当事者であるあなた自身も、『頑張って早く治そう』というボタンを押すのをやめてください。それが復旧への近道です。

【重要】免責事項と信頼性について

ここに掲載している内容は、すべて私個人の実体験と、一般的な知識に基づいてお話ししています。

この記事は、医師や医療専門家による医学的な診断、治療、またはアドバイスを代替するものではございません。

医学的根拠はございません。専門的な治療が必要な場合、必ず内科・脳神経外科、または心療内科・精神科の専門医の意見を仰いでください。

当記事を参考に、読者の方が下した判断や行動の結果について、当サイトは一切の責任を負いかねます。

合わせて読んでほしい記事:
【根本原因】「イカれた責任感」をどう手放すか? 真面目な人ほど脳を低スペック化させる罠
うつ病を「心の病気」と呼ばない理由:偏見が脳の回復を妨げる構造